2018年02月01日
絵解きに挑戦!筑波山神社 境内社装飾彫刻1~厳島神社(後編)
絵解きに挑戦!筑波山神社 境内社装飾彫刻1~厳島神社(後編)
神社仏閣の建物を飾る装飾彫刻。
おめでたい意味を持つ吉祥文様や、大陸から伝わってきた古代中国の伝説、神仙、仏教説話題材を多く見かけます。
彫られる動物、植物、人物にはやはり意味があって選ばれているでしょうし、ストーリー仕立てになっているものもあったりで、それらを絵解きしてみるととても面白いのです
筑波山神社の境内社(厳島神社・日枝神社本殿・春日神社本殿・日枝春日両社拝殿)の装飾彫刻の意味の読み解きにトライするシリーズ。
今回は、第1回 厳島神社の後編です。
前編は→ 絵解きに挑戦! 筑波山神社 境内社装飾彫刻1~厳島神社(前編)
筑波山神社境内にある厳島神社は、江戸時代は『弁天堂』だったことを念頭に、お読みください。
後編は、社殿の左右にある『脇障子』の彫刻と、向拝の『木鼻』の彫刻についてです。
⑥ 母屋(もや)に向かって右の脇障子 :唐松の木と、男性像(後ろ姿)
『脇障子』とは、回廊の行き止まりにある板状の壁で、こちらにも装飾彫刻が多く見られます。
こちら厳島神社にも脇障子があり、人物と木の彫刻が彫られています。
向かって右の脇障子には、木と男性像。
この木は、緑色の『花』のようなものから、松の葉の集まりを丸くデザインして描かれる『唐松』かと思われます。
※ちなみに、これとは別に『大和松』と呼ばれる葉のデザインもあり、これは屏風など日本伝統絵画に描かれる松の木の葉のように、上に向かって扇のように広がるデザインで表わされるとのこと(文献1、2)。
男性は緑の岩のような場所に立っています。
また松の幹やこの『岩』のようなものには、どちらにも白く丸い模様がいくつも描かれており、これはいわゆる木の幹や岩に生える藻か苔か(特に地衣類っぽい?)を表わしているのではないかと思います。
男性像は、横向きで、自分の左手(本殿)の方を見ています。
手元にあるのは硯でしょうか。
仮にこちらの男性像を、男性像A とします。
⑦ 母屋(もや)に向かって左の脇障子 :梅の花木と、男性像と酒器らしいもの

この木は、赤い花と枝ぶりからも想像して、梅の木でしょう(文献1)。
酒器らしい細い首の壺と杯が傍らにあり、お酒を飲みながら梅の花を愛でているのでしょうか
。
立っている場所はAと同じように緑の岩のような場所。
梅の幹と『岩』のような場所には、⑥と同じく藻か苔か地衣類を表わすような模様があります。
しかしこちらの場合、よく見ると三か所ほど、同じ緑色ですが、植物の葉と花らしいものも彫られています。
文献1にある『笹』 の図像によく似ているので、笹を表わしているのではないかと思われます。
こちらの男性像は正面を向いていますが、視線は自分の左下(本殿の床)の方へ。
こちらの男性像を 男性像B とします。
⑥⑦のA、Bの男性像が意味するところは、浅学にして現時点では分かりませんが、硯や酒器があるので、
いわゆる昔の中国の文人墨客を表しているのでしょうか。
【脇障子の彫刻の図像の謎解きに挑戦!】
個人的に気になったのが、
男性像Aは横向きで、自分の左を見ている
↓
本殿 もしくは、(向こう側にある)男性像Bを見ている?
↓
男性像Bは正面向きだが、顔は自分のやや右下(本殿の床)を見ている
↓
どこを見ているのか?
このなぞ解きはいかに?(または特に意味はないのか(笑))
・・・ここからは、想像力を超~たくましくして、考えてみました。
古来、文人墨客が好んだのは
『詩、酒、琴』の『北窓三友』
そして、文人画で好まれる題材に
『松、竹、梅』の『歳寒三友』。
こちらの厳島神社(弁天堂)の左右の脇障子に彫られているのは、どちらも文人らしい男性像とともに、
『松』 と 『硯 (→ 詩を書く)』、
『梅』 と 『酒器 (→ お酒を飲む)』。
・・・こうくると、残りの『竹』と『琴』も欲しくなりませんか?
男性像A with 松&硯 は(ぐるっと回って反対の位置にある)男性像Bを見て、
↓
男性像B with 梅&酒器 は視線をやや右、つまり本堂の方を見ている。
↓
本堂に祀られているのは、建立当時は弁才天。
↓
弁才天は楽曲の神様でもあり、(琴ではありませんが)琵琶を弾く姿は有名(琴も琵琶も弦楽器という意味では似ている)。
では、竹はどこに?
ここで、こちらの社の傍らの説明版の謂れ書きを思い出すと・・・。
創建当時、祀られた弁才天が分霊されてきたのは、琵琶湖の中に浮かぶ『竹生島』。
なんと、 『琵琶(←→ 琴)』 と 『竹』 を表わすもの、それは 本堂に祀られている弁才天そのもの!
なんて洒落っ気のあるデザイン!
私はそんな風に謎解きしました♪
本当の意味を専門家に教えて頂くのが一番なのですが、
素人の謎解きの答えとしては、結構いいセン行ってるのではないかと悦に入ってます(^^)v
※なお、向かって左の脇障子の『笹』らしい図像ですが、『笹』と『竹』は植物としては近い仲間ですが、図像としては意味が異なるようなので、『笹』の彫刻は『竹』を表すものではないと考えます。
⑧ 水引虹梁の木鼻: 『龍』か?『息』か? はたまた『猪』か??

社屋の正面のひさしがある部分『向拝)の屋根を支える左右の柱を、『向拝柱(こうはいはしら)』と呼び、
その左右の向拝柱の正面の上部を横に繋いでいる梁を、『水引虹梁(みずひきこうりょう)』と呼ぶそうです。
向拝柱を貫いて飛び出た水引虹梁の先を『木鼻』と呼び、ここにもよく装飾彫刻が見られます。

厳島神社の木鼻の彫刻は、龍の横顔のように見えますが、一般的に描かれる龍の長い2本のヒゲが、これにはない。
そして、口の先端は、豚か猪のように上にめくれている。
文献1、2によると、これは『龍』ではなく、『龍』に大変よく似た想像上の動物の、『息』のようですが、同書にはまた『息』は巻き毛で、『龍』は直毛とも。
こちらの木鼻の彫刻には、顔の周りに『直毛』状の毛らしい模様が描かれてます。
う~ん、『息』というより『龍』でしょうか?
または、まさかの猪? ← 弁才天の神使である蛇(巳)の裏干支の猪(亥)。 詳細は 前編 ご参照下さい
。
多分、一般的である『龍』なのかもしれませんね。
さて、この木鼻の『龍』(もしくは『息』?『猪』?)は、向かって右のものは口を開けていて『阿』型、

左のものは口を閉じていて『吽』型です。
筑波山神社の境内社の厳島神社は小さなお社(お堂)ですが、装飾彫刻は華やかで、見どころが多いです
。
このシリーズ、ぼちぼちと続きます
→ 絵解きに挑戦!筑波山神社境内社の装飾彫刻2 ~春日神社日枝神社両社拝殿
************************************************************************************************
【参考文献】
1. 『図説 社寺建築の彫刻 東照宮に彫られた動植物』 高藤晴俊 著 東京美術
2. 『日光東照宮の謎』 高藤晴俊 著 講談社現代新書
3. 『寺社の装飾彫刻ガイド 百龍めぐり 関東編』 若林 純 著 日貿出版社
4. 『寺社の装飾彫刻 宮彫り―壮麗なる超絶技巧を訪ねて』 若林 純 撮影 構成 日貿出版社
5. 『寺社の装飾彫刻 関東編(下) 千葉・栃木・茨城・神奈川』 若林 純 撮影 構成 日貿出版社
神社仏閣の建物を飾る装飾彫刻。
おめでたい意味を持つ吉祥文様や、大陸から伝わってきた古代中国の伝説、神仙、仏教説話題材を多く見かけます。
彫られる動物、植物、人物にはやはり意味があって選ばれているでしょうし、ストーリー仕立てになっているものもあったりで、それらを絵解きしてみるととても面白いのです

筑波山神社の境内社(厳島神社・日枝神社本殿・春日神社本殿・日枝春日両社拝殿)の装飾彫刻の意味の読み解きにトライするシリーズ。
今回は、第1回 厳島神社の後編です。

筑波山神社境内にある厳島神社は、江戸時代は『弁天堂』だったことを念頭に、お読みください。
後編は、社殿の左右にある『脇障子』の彫刻と、向拝の『木鼻』の彫刻についてです。
⑥ 母屋(もや)に向かって右の脇障子 :唐松の木と、男性像(後ろ姿)
『脇障子』とは、回廊の行き止まりにある板状の壁で、こちらにも装飾彫刻が多く見られます。
こちら厳島神社にも脇障子があり、人物と木の彫刻が彫られています。
この木は、緑色の『花』のようなものから、松の葉の集まりを丸くデザインして描かれる『唐松』かと思われます。
※ちなみに、これとは別に『大和松』と呼ばれる葉のデザインもあり、これは屏風など日本伝統絵画に描かれる松の木の葉のように、上に向かって扇のように広がるデザインで表わされるとのこと(文献1、2)。
男性は緑の岩のような場所に立っています。
また松の幹やこの『岩』のようなものには、どちらにも白く丸い模様がいくつも描かれており、これはいわゆる木の幹や岩に生える藻か苔か(特に地衣類っぽい?)を表わしているのではないかと思います。
男性像は、横向きで、自分の左手(本殿)の方を見ています。
手元にあるのは硯でしょうか。
仮にこちらの男性像を、男性像A とします。
⑦ 母屋(もや)に向かって左の脇障子 :梅の花木と、男性像と酒器らしいもの
この木は、赤い花と枝ぶりからも想像して、梅の木でしょう(文献1)。
酒器らしい細い首の壺と杯が傍らにあり、お酒を飲みながら梅の花を愛でているのでしょうか

立っている場所はAと同じように緑の岩のような場所。
梅の幹と『岩』のような場所には、⑥と同じく藻か苔か地衣類を表わすような模様があります。
しかしこちらの場合、よく見ると三か所ほど、同じ緑色ですが、植物の葉と花らしいものも彫られています。
文献1にある『笹』 の図像によく似ているので、笹を表わしているのではないかと思われます。
こちらの男性像は正面を向いていますが、視線は自分の左下(本殿の床)の方へ。
こちらの男性像を 男性像B とします。
⑥⑦のA、Bの男性像が意味するところは、浅学にして現時点では分かりませんが、硯や酒器があるので、
いわゆる昔の中国の文人墨客を表しているのでしょうか。
【脇障子の彫刻の図像の謎解きに挑戦!】
個人的に気になったのが、
男性像Aは横向きで、自分の左を見ている
↓
本殿 もしくは、(向こう側にある)男性像Bを見ている?
↓
男性像Bは正面向きだが、顔は自分のやや右下(本殿の床)を見ている
↓
どこを見ているのか?
このなぞ解きはいかに?(または特に意味はないのか(笑))
・・・ここからは、想像力を超~たくましくして、考えてみました。
古来、文人墨客が好んだのは
『詩、酒、琴』の『北窓三友』
そして、文人画で好まれる題材に
『松、竹、梅』の『歳寒三友』。
こちらの厳島神社(弁天堂)の左右の脇障子に彫られているのは、どちらも文人らしい男性像とともに、
『松』 と 『硯 (→ 詩を書く)』、
『梅』 と 『酒器 (→ お酒を飲む)』。
・・・こうくると、残りの『竹』と『琴』も欲しくなりませんか?
男性像A with 松&硯 は(ぐるっと回って反対の位置にある)男性像Bを見て、
↓
男性像B with 梅&酒器 は視線をやや右、つまり本堂の方を見ている。
↓
本堂に祀られているのは、建立当時は弁才天。
↓
弁才天は楽曲の神様でもあり、(琴ではありませんが)琵琶を弾く姿は有名(琴も琵琶も弦楽器という意味では似ている)。
では、竹はどこに?
ここで、こちらの社の傍らの説明版の謂れ書きを思い出すと・・・。
創建当時、祀られた弁才天が分霊されてきたのは、琵琶湖の中に浮かぶ『竹生島』。
なんと、 『琵琶(←→ 琴)』 と 『竹』 を表わすもの、それは 本堂に祀られている弁才天そのもの!
なんて洒落っ気のあるデザイン!

私はそんな風に謎解きしました♪

本当の意味を専門家に教えて頂くのが一番なのですが、
素人の謎解きの答えとしては、結構いいセン行ってるのではないかと悦に入ってます(^^)v

※なお、向かって左の脇障子の『笹』らしい図像ですが、『笹』と『竹』は植物としては近い仲間ですが、図像としては意味が異なるようなので、『笹』の彫刻は『竹』を表すものではないと考えます。
⑧ 水引虹梁の木鼻: 『龍』か?『息』か? はたまた『猪』か??
社屋の正面のひさしがある部分『向拝)の屋根を支える左右の柱を、『向拝柱(こうはいはしら)』と呼び、
その左右の向拝柱の正面の上部を横に繋いでいる梁を、『水引虹梁(みずひきこうりょう)』と呼ぶそうです。
向拝柱を貫いて飛び出た水引虹梁の先を『木鼻』と呼び、ここにもよく装飾彫刻が見られます。
厳島神社の木鼻の彫刻は、龍の横顔のように見えますが、一般的に描かれる龍の長い2本のヒゲが、これにはない。
そして、口の先端は、豚か猪のように上にめくれている。
文献1、2によると、これは『龍』ではなく、『龍』に大変よく似た想像上の動物の、『息』のようですが、同書にはまた『息』は巻き毛で、『龍』は直毛とも。
こちらの木鼻の彫刻には、顔の周りに『直毛』状の毛らしい模様が描かれてます。
う~ん、『息』というより『龍』でしょうか?
または、まさかの猪? ← 弁才天の神使である蛇(巳)の裏干支の猪(亥)。 詳細は 前編 ご参照下さい

多分、一般的である『龍』なのかもしれませんね。
さて、この木鼻の『龍』(もしくは『息』?『猪』?)は、向かって右のものは口を開けていて『阿』型、
左のものは口を閉じていて『吽』型です。
筑波山神社の境内社の厳島神社は小さなお社(お堂)ですが、装飾彫刻は華やかで、見どころが多いです

このシリーズ、ぼちぼちと続きます

→ 絵解きに挑戦!筑波山神社境内社の装飾彫刻2 ~春日神社日枝神社両社拝殿
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【参考文献】
1. 『図説 社寺建築の彫刻 東照宮に彫られた動植物』 高藤晴俊 著 東京美術
2. 『日光東照宮の謎』 高藤晴俊 著 講談社現代新書
3. 『寺社の装飾彫刻ガイド 百龍めぐり 関東編』 若林 純 著 日貿出版社
4. 『寺社の装飾彫刻 宮彫り―壮麗なる超絶技巧を訪ねて』 若林 純 撮影 構成 日貿出版社
5. 『寺社の装飾彫刻 関東編(下) 千葉・栃木・茨城・神奈川』 若林 純 撮影 構成 日貿出版社
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