2019年05月06日
つくば市内 万葉集に詠われるもう一つの山 『あじくま山』
つくば市内 万葉集に詠われるもう一つの山 『あじくま山』
元号が令和になり、『令和』 最初の記事は、やはり万葉集の話題から。
筑波山は万葉集では25首も詠われる山で、その数は富士山よりも多く、東国の山では一番多く歌われているとのことで、有名です。
しかし、もう一つ、万葉集に詠われる山が、つくば市内にあるのです。
その山の名は、
『あじくま山』。
万葉集原文では(文献1)
『阿自久麻夜未』
これで『あじくまやま』と読むようです。
『何(あ)ど思もへかあじくま山のゆずる葉の含(ふふ)まる時に風吹かずかも』
がその山が詠われる歌。
(1) あじくま(阿自久麻)山とは、どこにあるのか?
文献1によると、ここに出てくる『あじくま(阿自久麻)山』は、
『筑波郡筑波町神郡の子飼山をいう』
とのこと。
文献1は1980年発行なので、筑波郡筑波町神郡となっていますが、現在のつくば市神郡のことです。
そして『子飼山』とは?
Wikipediaの『蚕影神社』によると、『子飼山』は、大日本地名辞典からの引用として蚕影山の別名とのこと。
『子飼』は『こかい』と読むとすると、文献2の『養蚕(こがひ)山』の項に、『蚕影明神の社あり』とありますから、まず間違いなく、蚕影山神社(蚕影神社)のある山のことでしょう
蚕影山神社(2019年3月撮影)
蚕影山にある蚕影山神社(蚕影神社)は、養蚕信仰で栄えた神社で、『金色姫伝説』が伝わります。
蚕影山神社に関しては、以前書いた記事も良かったら♪
→ 東京・立川の『猫返し神社』と筑波山麓の関係!
筑波山神社付近から、神郡付近 及び 蚕影山神社方面を望む(2019年4月撮影)。
つまり、万葉集に詠われる『筑波山』から、同じく万葉集に詠われる『あじくま(阿自久麻)山』方面を望んでいます。
(2)詠われている歌の意味は?
さて、万葉集に詠われている
『何ど思もへかあじくま山のゆづる葉の含まる時に風吹かずかも』
の歌の意味ですが、文献1の口語訳によると、
『あじくま山のゆずり葉がまたつぼんでいるうちに、なんと思って風が吹かないのかな』
とのこと。
※ゆずり葉(ユズリハ)は、常緑植物で、新芽が1枚出ると古い葉が1枚落ちるという性質とのことで、順調に代替わりをすることを意味する植物で、おめでたい木とされています。
・・・う~ん、でもこのままでは、意味がよくわかりません
それもそのはず?、この歌は、万葉集の中で158首ある『譬喩歌』の一つとのことで、
『譬喩歌』とは『心に思うことを表面に出さず、物にたとえて詠む歌のこと』で、
『詠み込まれている内容も恋愛の内容ばかりである』
だそう。
だからか、このままでは何が言いたいのか、ちょっと分からないのですね
で、この歌の真意はいかに?
文献1によると、歌の中の、
・何ど思もへか : 何と思うことか → 『(村の若者達は)何を考えているんだろうか』
・含まる時 : まだつぼんでいる時に → 『成熟しないうら若い女性』の譬え
・風吹かずかも : 風が吹かないかなあ → 『風吹く』は『男性が女性を無理に自分のものにすること』の譬え
・・・この解釈でいくと、めっちゃくちゃ不届きな歌ですね(怒)
まだ嫁にするには若すぎるけれど綺麗な娘なのに、村の若い衆は何もしないで何をしているんだ?さっさと自分のものにしたら良いのに・・・という意味の歌らしいのです。
『夜ばい』というのが公然と行われていた上代の時代の歌とはいえ、すごい歌だなぁ・・・現代では逮捕されますねっ。
万葉集で、筑波山が詠まれている歌も、かなり大胆な内容が多いので、その頃の風習で、普通のことだったのでしょうが。
さすが『かがい(嬥歌)』のあった筑波山のそばに位置する山であります。
・・・でも、歌の解釈、これが本当なのかなぁ???
特に、歌のキーワードでもありそうな、
『ゆづる葉』 と 『あじくま山』
に意味がありそうですが、解釈にはその意味が入っていないようですが…?
私は古典とか和歌とか、全くのど素人ですが、歌の解釈はいくらでも出来そうに思うのです。
同じ恋愛の歌でも、もう少し、奥ゆかしい方が良いなぁと思うのは、私が現代人だからでしょうかねぇ…。
山桜が美しい季節の 蚕影山=子飼山=あじくま(阿自久麻)山 付近(2018年4月撮影)。
ちなみに、『あじくま山』を詠んだ歌は他にもあって、文献1によると、『新六帖』(※)に、
『ゆづる葉のときはの色も埋もれぬあじくま山に雪の降れれば』 (衣笠内大臣)
『いやましにあじくま山はみ雪降る峯のゆづるはいそぎとらなん』 (光俊)
の2首があるとのこと。
(※)鎌倉中期に編纂されたという新撰六帖題和歌のことでしょうか?
衣笠内大臣は衣笠家良(藤原家良)、光俊は葉室光俊を指すようですが、歌の解釈も含め、詳しい方、ご教示ください。
『あじくま山』と『ゆづる葉(ユズリハ)』はセットのようですね。
上の2首の歌の意味とともに、セットである理由も知りたいところです。
それにしても、『阿自久麻山(あじくまやま)』として、蚕影山も古代から幾つかの歌に詠われている山!
このことは、もっと知られるべきです
蚕影山神社 及び その付近については、また後日、改めて書いていきたいと考えています。
***************************************
【参考文献】
1.『万葉集 常陸の歌 ―作品解釈と鑑賞への道しるべ― 上・下』 有馬 徳 著 筑波書林
2.『筑波山名跡誌 ―安永期の貴重な地誌再現―』 上生庵亮盛 著 桐原光明 解説 筑波書林
【参考サイト】
1. Wikipedia 『蚕影神社』
元号が令和になり、『令和』 最初の記事は、やはり万葉集の話題から。
筑波山は万葉集では25首も詠われる山で、その数は富士山よりも多く、東国の山では一番多く歌われているとのことで、有名です。
しかし、もう一つ、万葉集に詠われる山が、つくば市内にあるのです。
その山の名は、
『あじくま山』。
万葉集原文では(文献1)
『阿自久麻夜未』
これで『あじくまやま』と読むようです。
『何(あ)ど思もへかあじくま山のゆずる葉の含(ふふ)まる時に風吹かずかも』
がその山が詠われる歌。
(1) あじくま(阿自久麻)山とは、どこにあるのか?
文献1によると、ここに出てくる『あじくま(阿自久麻)山』は、
『筑波郡筑波町神郡の子飼山をいう』
とのこと。
文献1は1980年発行なので、筑波郡筑波町神郡となっていますが、現在のつくば市神郡のことです。
そして『子飼山』とは?
Wikipediaの『蚕影神社』によると、『子飼山』は、大日本地名辞典からの引用として蚕影山の別名とのこと。
『子飼』は『こかい』と読むとすると、文献2の『養蚕(こがひ)山』の項に、『蚕影明神の社あり』とありますから、まず間違いなく、蚕影山神社(蚕影神社)のある山のことでしょう
蚕影山神社(2019年3月撮影)
蚕影山にある蚕影山神社(蚕影神社)は、養蚕信仰で栄えた神社で、『金色姫伝説』が伝わります。
蚕影山神社に関しては、以前書いた記事も良かったら♪
→ 東京・立川の『猫返し神社』と筑波山麓の関係!
筑波山神社付近から、神郡付近 及び 蚕影山神社方面を望む(2019年4月撮影)。
つまり、万葉集に詠われる『筑波山』から、同じく万葉集に詠われる『あじくま(阿自久麻)山』方面を望んでいます。
(2)詠われている歌の意味は?
さて、万葉集に詠われている
『何ど思もへかあじくま山のゆづる葉の含まる時に風吹かずかも』
の歌の意味ですが、文献1の口語訳によると、
『あじくま山のゆずり葉がまたつぼんでいるうちに、なんと思って風が吹かないのかな』
とのこと。
※ゆずり葉(ユズリハ)は、常緑植物で、新芽が1枚出ると古い葉が1枚落ちるという性質とのことで、順調に代替わりをすることを意味する植物で、おめでたい木とされています。
・・・う~ん、でもこのままでは、意味がよくわかりません
それもそのはず?、この歌は、万葉集の中で158首ある『譬喩歌』の一つとのことで、
『譬喩歌』とは『心に思うことを表面に出さず、物にたとえて詠む歌のこと』で、
『詠み込まれている内容も恋愛の内容ばかりである』
だそう。
だからか、このままでは何が言いたいのか、ちょっと分からないのですね
で、この歌の真意はいかに?
文献1によると、歌の中の、
・何ど思もへか : 何と思うことか → 『(村の若者達は)何を考えているんだろうか』
・含まる時 : まだつぼんでいる時に → 『成熟しないうら若い女性』の譬え
・風吹かずかも : 風が吹かないかなあ → 『風吹く』は『男性が女性を無理に自分のものにすること』の譬え
・・・この解釈でいくと、めっちゃくちゃ不届きな歌ですね(怒)
まだ嫁にするには若すぎるけれど綺麗な娘なのに、村の若い衆は何もしないで何をしているんだ?さっさと自分のものにしたら良いのに・・・という意味の歌らしいのです。
『夜ばい』というのが公然と行われていた上代の時代の歌とはいえ、すごい歌だなぁ・・・現代では逮捕されますねっ。
万葉集で、筑波山が詠まれている歌も、かなり大胆な内容が多いので、その頃の風習で、普通のことだったのでしょうが。
さすが『かがい(嬥歌)』のあった筑波山のそばに位置する山であります。
・・・でも、歌の解釈、これが本当なのかなぁ???
特に、歌のキーワードでもありそうな、
『ゆづる葉』 と 『あじくま山』
に意味がありそうですが、解釈にはその意味が入っていないようですが…?
私は古典とか和歌とか、全くのど素人ですが、歌の解釈はいくらでも出来そうに思うのです。
同じ恋愛の歌でも、もう少し、奥ゆかしい方が良いなぁと思うのは、私が現代人だからでしょうかねぇ…。
山桜が美しい季節の 蚕影山=子飼山=あじくま(阿自久麻)山 付近(2018年4月撮影)。
ちなみに、『あじくま山』を詠んだ歌は他にもあって、文献1によると、『新六帖』(※)に、
『ゆづる葉のときはの色も埋もれぬあじくま山に雪の降れれば』 (衣笠内大臣)
『いやましにあじくま山はみ雪降る峯のゆづるはいそぎとらなん』 (光俊)
の2首があるとのこと。
(※)鎌倉中期に編纂されたという新撰六帖題和歌のことでしょうか?
衣笠内大臣は衣笠家良(藤原家良)、光俊は葉室光俊を指すようですが、歌の解釈も含め、詳しい方、ご教示ください。
『あじくま山』と『ゆづる葉(ユズリハ)』はセットのようですね。
上の2首の歌の意味とともに、セットである理由も知りたいところです。
それにしても、『阿自久麻山(あじくまやま)』として、蚕影山も古代から幾つかの歌に詠われている山!
このことは、もっと知られるべきです
蚕影山神社 及び その付近については、また後日、改めて書いていきたいと考えています。
***************************************
【参考文献】
1.『万葉集 常陸の歌 ―作品解釈と鑑賞への道しるべ― 上・下』 有馬 徳 著 筑波書林
2.『筑波山名跡誌 ―安永期の貴重な地誌再現―』 上生庵亮盛 著 桐原光明 解説 筑波書林
【参考サイト】
1. Wikipedia 『蚕影神社』
2024夏越しの祓え 茅の輪 @筑波山神社
取手で江戸を味わう ~ 長禅寺三世堂・取手宿本陣・大師弁当などなど
落語『紋三郎稲荷』 の舞台を訪ねて (三)
落語『紋三郎稲荷』 の舞台を訪ねて (二)
落語『紋三郎稲荷』 の舞台を訪ねて (一)
茨城3つの養蚕信仰の聖地について(9) 地元の方から教えて頂いた神栖に伝わるお話
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Posted by かるだ もん at 16:43│Comments(0)│茨城&つくば プチ民俗学・歴史
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