2018年11月04日
筑波山麓の『しっぺい太郎』伝説(前編)
筑波山麓の『しっぺい太郎』伝説(前編)
2018年は戌年ということで、戌年も残りわずかですが、
せっかくの戌年ですので、茨城県内に伝わる、犬にちなむ昔話・伝説と、そこにちなむ土地をいくつか訪ねた報告をするシリーズ 。
同シリーズ 前回の記事
→ 石岡駅の忠犬タロー像
また、板橋不動尊(つくばみらい市)の安産子育てのご利益の由来で有名な、白犬伝説については、以前書いた記事、
→ 春の布施街道(千葉・柏(布施)~茨城・つくば(谷田部))を行く(2)
をご覧ください(^^)
さて今回は
茨城県下に伝わる『しっぺい太郎』伝説です(文献1、2,3)。
【物語の舞台は筑波山麓】
≪おおまかなあらすじ≫
毎年、村に災いをもたらす『神』に若い娘を人身御供に出していた村があった。そのことに憤った山伏が、ひょんなことから、『丹波国(※)のしっぺい太郎』という名の犬をその神が怖がることを知り、そのしっぺい太郎を借りてきた。人身御供の儀式の日の夜に、しっぺい太郎は『神』と戦い、その神は大きな『ヒヒ猿(もしくは白猿)』で、翌朝、ヒヒ猿(白猿)達は息絶えており、しっぺい太郎もその後力尽きて息絶えてしまった。
それからは、その村では、人身御供を出すことはなくなった。
※文献3では『三河国』
3つの文献を比較すると・・・
文献1:
①物語が伝わるのは『筑波山麓』
②物語の舞台も、『筑波山麓』の村。
③犬は、『丹波』の国のしっぺい太郎。
写真は筑波山中腹、東山地区から眺めた景色。
こちらは、つくば市北部~桜川市真壁町付近の『筑波山麓』
『筑波山麓』は広いので、現在のつくば市側か、桜川市(真壁町)側か、石岡市(八郷地区)側か、いろいろ候補はありますね…。
文献2:
①物語が伝わっている(話が採取された)場所は水戸市。
②物語の舞台は『筑波山中』の村。
③犬は、『丹波』の国のしっぺい太郎。
写真は筑波山中の筑波山梅林。
あくまでも『筑波山中』のイメージです
文献3:
①話の採取は水戸市。
②物語の舞台は不明(話の断片だけで詳細のあらすじは不明)。
③犬は、『三河』国のしっぺい太郎。
です。
このような犬が、人身御供を求める山の神(大猿など)を退治する話は、『猿神退治』型の伝説というようで、実は全国各地に伝わります。
そういう『猿神退治』型伝説を調べていると、文献4に興味深い話を見つけました。
【長野に伝わる『筑波山麓』の犬の話】
文献4に、長野県小県郡に伝わる昔話では、『しっぺい太郎』というのは、『筑波山麓の助五郎の犬』ということで登場します。
文献4に書かれているのは、大変おおまかなあらすじのみですが、
文献4:
①長野県小県郡で伝わる(※)
②小県郡の村か?(庄屋の娘が人身御供になりかかる)
③『しっぺい太郎』は『筑波山麓の助五郎の犬』
そして、犬が退治するのは、狐、狸、狼、山猫(猿はいない)で、退治した後もしっぺい太郎は元気。
※文献4によると『小県郡民譚集 小山真夫 昭和8年 郷土研究社』という文献からの引用のようです。
小県郡というのは、多分、諏訪~上田の間にある山間の地域ではないかと思いますが、そこの話にいきなり『筑波山』が出てきたのが意外でした。
小県に筑波山という山があるのか??
茨城県民としては、茨城の筑波山だと思いたいですね♪
そして、(長野県小県郡に出てくる『筑波山』が茨城県の筑波山とした場合)、4つの話から、常陸国筑波山麓と信濃国小県郡で、何かつながり(物の交流とか宗教者の移動等)があったのかなぁ??
・・・なんて、妄想も広がります
【筑波山の近郊に伝わる類似の話】
さて、猿神退治伝説ですが、筑波山より南、同じ筑波山系の山の麓、土浦市山ノ荘地区の日枝神社にも、大ヒヒ退治の伝説が伝わります(文献5)。
但しこちらの伝説では、大ヒヒを退治したのはワンコでなく、人間(領主と弓の達人)。
そして、時は室町時代と伝わっています。
それにちなんだ流鏑馬神事(日枝神社流鏑馬祭 茨城県指定無形文化財)が今も伝わっていますので、筑波山麓の伝説としては、しっぺい太郎伝説よりこちらのお話をご存じの方の方が多いことでしょう。
日枝神社流鏑馬については、
→ 土浦市ホームページ 『日枝神社流鏑馬祭(県指定)』
をご参照ください。
【『しっぺい太郎』の姿を訪ねて】
全国に伝わる『猿神退治』伝説ですが、
古くは、平安時代後期に成立した説話集『今昔物語』、鎌倉時代に成立した説話集『宇治拾遺物語』にも、既に出てきます。
(文献6、7)。さらに古く4世紀の中国東晋で編纂された『捜神記』にも、猿神退治の話があるそうです(文献7)。
(想像するに、多分、仏教や文化の伝播とともに、そういう話も海を渡って入ってきたのでしょう)
ただしいずれの話も、猿神を退治するのは、犬ではなく人間です。
これが全国の民話との大きな違いでしょうか。
どこで、犬が入ってきたのか?
・・・これは興味深いテーマですが、かなり深い話になりそうなので、折を見て調べたいと思ってます。
戌年2018年としては、やはりワンコが活躍する話に注目したいです。
筑波山麓の伝説の犬『しっぺい太郎』そして『助五郎の犬』の姿を求めて、
全国に伝わる『しっぺい太郎』伝説の中でも特徴的な、
長野県駒ケ根市に伝わる『早太郎伝説』
と、
静岡県磐田市に伝わる『悉平(しっぺい)太郎伝説』
に注目しました。
この2か所の伝説は、お互いに繋がっているのも面白いし、リアルです。
駒ヶ根市の光前寺というお寺さんには、早太郎のお墓まで伝わるそう。
また、駒ヶ根市と磐田市は天竜川の上流と下流に位置するのも、何かの繋がりを感じます。
そして現代では、その伝説繋がりで、駒ケ根市と磐田市が姉妹都市になっているのもすごい♪
静岡県磐田市HP 『悉平太郎伝説』
http://www.city.iwata.shizuoka.jp/about/profile/shippei/shi004.php
長野県駒ヶ根市 光前寺(天台宗)HPより
http://www.kozenji.or.jp/contents/hayatarou.html
ちなみに、駒ヶ根市は、先に『筑波山の助五郎の犬』伝説が伝わる小県郡からはちょっと離れていますが、同じ長野県です。
といういことで、駒ケ根市の光前寺を訪れる機会がありましたので、その報告は後日後編にて。
(写真は、光前寺で購入した、早太郎おみくじと、早太郎のお守り♪)
続きます。
→ 筑波山麓の『しっぺい太郎』伝説(後編) ~ 『しっぺい太郎』の姿を訪ねて
*********************************************************
【参考文献】
1. 『茨城県の民話と伝説 上 ふるさとの自然と動物』 藤田 稔 著 有峰書房
2. 『定本 日本の民話 6 茨城の民話(第1集 第2集)』 日向野徳久 編著 未来社
3. 『茨城の昔話』 鶴尾能子編 昔話研究資料叢書(7) 三弥井書店
4. 『日本昔話大成 第7巻 本格昔話 六』 関 敬吾 著 角川書店
5. 『新治村の昔ばなし』 仲田安夫 著 筑波書林
6. 『今昔物語』 福永武彦 訳 ちくま文庫
7. 『宇治拾遺物語』 中島悦次 校注 角川ソフィア文庫
2018年は戌年ということで、戌年も残りわずかですが、
せっかくの戌年ですので、茨城県内に伝わる、犬にちなむ昔話・伝説と、そこにちなむ土地をいくつか訪ねた報告をするシリーズ 。
同シリーズ 前回の記事
→ 石岡駅の忠犬タロー像
また、板橋不動尊(つくばみらい市)の安産子育てのご利益の由来で有名な、白犬伝説については、以前書いた記事、
→ 春の布施街道(千葉・柏(布施)~茨城・つくば(谷田部))を行く(2)
をご覧ください(^^)
さて今回は
茨城県下に伝わる『しっぺい太郎』伝説です(文献1、2,3)。
【物語の舞台は筑波山麓】
≪おおまかなあらすじ≫
毎年、村に災いをもたらす『神』に若い娘を人身御供に出していた村があった。そのことに憤った山伏が、ひょんなことから、『丹波国(※)のしっぺい太郎』という名の犬をその神が怖がることを知り、そのしっぺい太郎を借りてきた。人身御供の儀式の日の夜に、しっぺい太郎は『神』と戦い、その神は大きな『ヒヒ猿(もしくは白猿)』で、翌朝、ヒヒ猿(白猿)達は息絶えており、しっぺい太郎もその後力尽きて息絶えてしまった。
それからは、その村では、人身御供を出すことはなくなった。
※文献3では『三河国』
3つの文献を比較すると・・・
文献1:
①物語が伝わるのは『筑波山麓』
②物語の舞台も、『筑波山麓』の村。
③犬は、『丹波』の国のしっぺい太郎。
写真は筑波山中腹、東山地区から眺めた景色。
こちらは、つくば市北部~桜川市真壁町付近の『筑波山麓』
『筑波山麓』は広いので、現在のつくば市側か、桜川市(真壁町)側か、石岡市(八郷地区)側か、いろいろ候補はありますね…。
文献2:
①物語が伝わっている(話が採取された)場所は水戸市。
②物語の舞台は『筑波山中』の村。
③犬は、『丹波』の国のしっぺい太郎。
写真は筑波山中の筑波山梅林。
あくまでも『筑波山中』のイメージです
文献3:
①話の採取は水戸市。
②物語の舞台は不明(話の断片だけで詳細のあらすじは不明)。
③犬は、『三河』国のしっぺい太郎。
です。
このような犬が、人身御供を求める山の神(大猿など)を退治する話は、『猿神退治』型の伝説というようで、実は全国各地に伝わります。
そういう『猿神退治』型伝説を調べていると、文献4に興味深い話を見つけました。
【長野に伝わる『筑波山麓』の犬の話】
文献4に、長野県小県郡に伝わる昔話では、『しっぺい太郎』というのは、『筑波山麓の助五郎の犬』ということで登場します。
文献4に書かれているのは、大変おおまかなあらすじのみですが、
文献4:
①長野県小県郡で伝わる(※)
②小県郡の村か?(庄屋の娘が人身御供になりかかる)
③『しっぺい太郎』は『筑波山麓の助五郎の犬』
そして、犬が退治するのは、狐、狸、狼、山猫(猿はいない)で、退治した後もしっぺい太郎は元気。
※文献4によると『小県郡民譚集 小山真夫 昭和8年 郷土研究社』という文献からの引用のようです。
小県郡というのは、多分、諏訪~上田の間にある山間の地域ではないかと思いますが、そこの話にいきなり『筑波山』が出てきたのが意外でした。
小県に筑波山という山があるのか??
茨城県民としては、茨城の筑波山だと思いたいですね♪
そして、(長野県小県郡に出てくる『筑波山』が茨城県の筑波山とした場合)、4つの話から、常陸国筑波山麓と信濃国小県郡で、何かつながり(物の交流とか宗教者の移動等)があったのかなぁ??
・・・なんて、妄想も広がります
【筑波山の近郊に伝わる類似の話】
さて、猿神退治伝説ですが、筑波山より南、同じ筑波山系の山の麓、土浦市山ノ荘地区の日枝神社にも、大ヒヒ退治の伝説が伝わります(文献5)。
但しこちらの伝説では、大ヒヒを退治したのはワンコでなく、人間(領主と弓の達人)。
そして、時は室町時代と伝わっています。
それにちなんだ流鏑馬神事(日枝神社流鏑馬祭 茨城県指定無形文化財)が今も伝わっていますので、筑波山麓の伝説としては、しっぺい太郎伝説よりこちらのお話をご存じの方の方が多いことでしょう。
日枝神社流鏑馬については、
→ 土浦市ホームページ 『日枝神社流鏑馬祭(県指定)』
をご参照ください。
【『しっぺい太郎』の姿を訪ねて】
全国に伝わる『猿神退治』伝説ですが、
古くは、平安時代後期に成立した説話集『今昔物語』、鎌倉時代に成立した説話集『宇治拾遺物語』にも、既に出てきます。
(文献6、7)。さらに古く4世紀の中国東晋で編纂された『捜神記』にも、猿神退治の話があるそうです(文献7)。
(想像するに、多分、仏教や文化の伝播とともに、そういう話も海を渡って入ってきたのでしょう)
ただしいずれの話も、猿神を退治するのは、犬ではなく人間です。
これが全国の民話との大きな違いでしょうか。
どこで、犬が入ってきたのか?
・・・これは興味深いテーマですが、かなり深い話になりそうなので、折を見て調べたいと思ってます。
戌年2018年としては、やはりワンコが活躍する話に注目したいです。
筑波山麓の伝説の犬『しっぺい太郎』そして『助五郎の犬』の姿を求めて、
全国に伝わる『しっぺい太郎』伝説の中でも特徴的な、
長野県駒ケ根市に伝わる『早太郎伝説』
と、
静岡県磐田市に伝わる『悉平(しっぺい)太郎伝説』
に注目しました。
この2か所の伝説は、お互いに繋がっているのも面白いし、リアルです。
駒ヶ根市の光前寺というお寺さんには、早太郎のお墓まで伝わるそう。
また、駒ヶ根市と磐田市は天竜川の上流と下流に位置するのも、何かの繋がりを感じます。
そして現代では、その伝説繋がりで、駒ケ根市と磐田市が姉妹都市になっているのもすごい♪
静岡県磐田市HP 『悉平太郎伝説』
http://www.city.iwata.shizuoka.jp/about/profile/shippei/shi004.php
長野県駒ヶ根市 光前寺(天台宗)HPより
http://www.kozenji.or.jp/contents/hayatarou.html
ちなみに、駒ヶ根市は、先に『筑波山の助五郎の犬』伝説が伝わる小県郡からはちょっと離れていますが、同じ長野県です。
といういことで、駒ケ根市の光前寺を訪れる機会がありましたので、その報告は後日後編にて。
(写真は、光前寺で購入した、早太郎おみくじと、早太郎のお守り♪)
続きます。
→ 筑波山麓の『しっぺい太郎』伝説(後編) ~ 『しっぺい太郎』の姿を訪ねて
*********************************************************
【参考文献】
1. 『茨城県の民話と伝説 上 ふるさとの自然と動物』 藤田 稔 著 有峰書房
2. 『定本 日本の民話 6 茨城の民話(第1集 第2集)』 日向野徳久 編著 未来社
3. 『茨城の昔話』 鶴尾能子編 昔話研究資料叢書(7) 三弥井書店
4. 『日本昔話大成 第7巻 本格昔話 六』 関 敬吾 著 角川書店
5. 『新治村の昔ばなし』 仲田安夫 著 筑波書林
6. 『今昔物語』 福永武彦 訳 ちくま文庫
7. 『宇治拾遺物語』 中島悦次 校注 角川ソフィア文庫
落語『紋三郎稲荷』 の舞台を訪ねて (三)
落語『紋三郎稲荷』 の舞台を訪ねて (二)
落語『紋三郎稲荷』 の舞台を訪ねて (一)
茨城3つの養蚕信仰の聖地について(9) 地元の方から教えて頂いた神栖に伝わるお話
国立歴史民俗博物館 企画展 『陰陽師とは何者か』 を見て
映画『石岡タロー』
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Posted by かるだ もん at 20:36│Comments(0)│茨城&つくば プチ民俗学・歴史
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