絵解きに挑戦! 筑波山神社 境内社装飾彫刻1~厳島神社(前編)


神社やお寺の建築物の装飾彫刻は、たとえば日光東照宮の 『眠り猫』 『三猿』 はよく知られているものですね。
それ以外も、龍、鳳凰などの想像上の動物や、実在の動物・植物の文様も多くあります。

神社仏閣を飾るものなので、おめでたい意味を持つ吉祥文様や、大陸から伝わってきた古代中国の伝説、神仙、仏教説話題材を多く見かけます。

彫られる動物、植物、人物にはやはり意味があって選ばれているでしょうし、ストーリー仕立てになっているものもあったりで、それらを絵解きしてみるととても面白いのですグッド

さて筑波山神社境内にある、茨城県指定文化財の神橋・厳島神社・日枝神社本殿・春日神社本殿・日枝春日両社拝殿にも、装飾彫刻があります。

しかし現在のところ、詳しい解説は見たことがないので、浅学ながら、絵解きにトライしてみたいと思いますちょき
多分勉強が進むと解釈が変わっていくと思いますので、それは追々、追加・修正していきますね。


まず、1回目は厳島神社。

(1)厳島神社 


茨城県指定文化財で、寛永十年(1633年)の建造。
※日光東照宮の建築群は 寛永十三年(1636年)の『寛永の大造替』で建て替えられたものですから、東照宮より3年ほど古いです。
時の三代将軍 徳川家光の寄進で、これも東照宮と同じですね。

社の傍の説明版によると、近江の国(現在の滋賀県)の竹生島から分霊されたとのこと。

厳島神社は、江戸時代(筑波山知足院中禅寺)の頃の絵を見ると、『弁天堂』となっています。
弁才天が祀られていて、明治の神仏分離で、祭神が弁才天から市杵島姫命(イチキシマヒメノミコ:神仏混淆の頃は弁財天と同一と見られていたそう)となったのは、本家の竹生島と同じ。


① 向拝の蟇股: 蛇

正面のひさしのような部分は『向拝(こうはい)』というそうです。その屋根の下に位置する『蟇股(かえるまた)』と呼ばれる、その名の通りカエルの両股のような形の木枠の中に、蛇の彫刻があります。


けっこうリアルな蛇の姿。
蛇が苦手な人にはちょっと辛そうな躍動感?!

この社の周りにも堀のような小さな池があり、江戸時代まで弁財天を祀っていた弁天堂の雰囲気が伝わってきます。

このように社殿が建造された江戸初期は弁財天が祀られていて、『蛇は弁財天のお使い(神使)』ということで、蛇が向拝の蛙股に彫られたのでしょう。

蛇の背景として彫られているのは、牡丹か芙蓉か長春(薔薇)の花のような、多弁の花と葉です。
全体的に白っぽい花ですが、花弁の内側は赤い色のよう。

花も葉も上向きなので分かりにくいのですが、丸い(咲きかけの)蕾らしいものもあるので、牡丹か芙蓉のように思えます。



② 母屋(もや)の正面の蟇股: 龍?

日光東照宮の例が顕著ですが、寺社の装飾彫刻は、中国伝来の想像上の動物がたくさん彫られています。
その最たるものが『龍』です。
しかも、『龍』にもいろんな段階・形態があるようで(シン・ゴジラみたい!?)、詳しく見ると少しずつ違っていて、それぞれ名前があるのです(文献1~5)。

『龍』も古来から水を司る動物とされ、水乞いの昔話にもよく登場します。

またWikipediaによると(『応竜』)
「『述異記』には、「泥水で育った蝮(まむし)は五百年にして蛟(雨竜)となり、蛟は千年にして竜(成竜)となり、竜は五百年にして角竜(かくりゅう)となり、角竜は千年にして応竜になり、年老いた応竜は黄竜と呼ばれる」とある』
だそうで、古来から中国では、蝮(蛇)が長い生きると『龍』になるという考えがあったようです。



上記①の向拝の蟇股の『蛇』の後ろに、母屋の蛙股の『龍』がいます。

お使いである蛇は最前面の向拝の蟇股に、『受付』もしくは『警備』としているのかな??










母屋正面の蛙股の『龍』の彫刻。
愛嬌のある龍ですよね♪

こちらの厳島神社(弁天堂)を分霊してきた元である琵琶湖の竹生島では、龍神も祀られているそうです。
ですから、建設当時は弁財天(現在は市杵島姫命)が祀られた神社の母屋の蟇股に『龍』が彫られるのはとても納得できます。

ところで、『龍』と書きましたが、文献1、2によると、『龍』にきわめて良く似ていて混同されている想像上の動物に『息』(いき?そく?)があるそうです。
同文献による『龍』と『息』の形態比較より、こちらの神社の『龍』は『息』の可能性も否定出来ませんが、多分、一般的な『龍』として良いと考えます。


③ 母屋(もや)の左面の蟇股: 鯱(しゃち)?


一瞬、鳥?もしくは、魚(トビウオ)?と現代人は思ってしまいますが、これは多分『鯱(しゃち)』ではないかと思います。(文献1、2)
お城の屋根にあるシャチホコ(鯱鉾)のシャチ(鯱)ですね。
鯱は口から水を大量に吐くと考えられたそうなので、防火のおまじないの飾りで、屋根に飾られたそうです。

羽のように見えるのはヒレを誇張したのはないでしょうか。

文献1、2によると、翼を持った龍で尾が魚のような形のものに『飛龍』別名『応龍』がいて、混同されるそうです。
やはり水を司る龍として、東照宮ではお水屋や、火を使う護摩堂に(防火の意味で)彫刻があるとのこと。

ただ、『飛龍』/『応龍』は、鳥のような足がしっかり描かれていますが、こちらの像は脚は描かれていません。
龍というより魚に近い体型ですし、『鯱』ではないかと考えます。
波も一緒に彫られているので、より魚っぽい気がします。
   
ところで、文献3によると、
・鯉 → 鯱 → 飛龍 → 龍 と進化するとも考えられたようです。
    
想像上の生き物なので、根拠となった伝説によって、  
 (A) 蛇 → 龍
  (B) 鯉 → 鯱 → 飛龍 → 龍
と大きく2タイプの『龍』があるみたいですね。


④ 母屋(もや)の右面の蟇股: 鯱(しゃち)?


左面と同じで、こちらも『鯱(しゃち)』のようです。
鯱の体の表現は、左面の彫刻と少し異なって変化を持たせているようです。
 
ヒレが翼のようにも見えて、応龍/飛龍の様にも見えますが、脚が表現されていないので、やはり鯱ではないかと思います。
※個人的には『応龍/飛龍』だと思いたいのですが、両方とも『脚』が描かれていないので、鯱とするしかない気がします。

なお、鯱にとても似た形の想像上の生き物に、インドの伝説に端を発するらしい、マカラ(摩伽羅、摩伽羅魚、魔羯魚)というものがあるようです。
例えば、京都の黄檗宗の寺院(萬福寺)の屋根にあるのは『鯱』とは呼ばず『マカラ(摩伽羅)』と呼ぶそう。
また東南アジアの寺院では、このマカラ(摩伽羅)の装飾がよく見られるようです。

このマカラも、水を吐くと考えられた生き物なので防火のおまじないの意味があるようで、多分、仏教伝播の中で、マカラ(摩伽羅、摩伽羅魚、魔羯魚)が日本に伝わり、『鯱』と呼ばれるようになり、城などの屋根飾りになっていったかと想像します。

この厳島神社(江戸時代までは弁天堂)の左右の蟇股に、鯱(もしくはマカラ?)が選ばれた理由は何なのでしょう?
考えてみると、なんだか面白そうです。

でも、いずれにせよ、蛇も龍も鯱も、どれも『水』とは深い関係のある想像上の動物。
これは私の勝手な想像ですが、昔はここで雨乞いの祈願などもされたのかもしれませんね。


⑤ 母屋(もや)の後面の蟇股: 猪


さて、母屋の後面は、筑波山神社社務所の付近の手すりからよく見えます。
なんと、こちらは『猪』!
なぜ、猪? 
蛇との関係は?

私は、これは蛇の『裏干支』を持ってきたのではないかと考えています。
裏干支というのは、干支をぐるっと丸く並べると、ちょうど反対側になる干支のことです。

昔から『裏干支で守る』という考え方があるそうで、神使の『蛇』(巳)の裏干支はちょうど『猪』(亥)。そうすると唐突に『猪』が彫られている理由に納得がいきます。

いろんな形で、装飾彫刻はゲンを担いだりお守りを用いたりしているのが、よく分かります。

この猪の背景も、向拝の蟇股の蛇と同じような多弁の花と葉が彫られています。
こちらも外側が白く内側が赤い花。やはり牡丹か芙蓉の花のようです。


 豆電球なお、この『猪』の彫刻については、以前に記事に書きましたので、そちらも良かったら。
  → 巳年!金運&健康運にご利益あり!? 神社・場所 in 茨城(1)

※ただし筑波山神社拝殿に向かって右のエリアにある日枝神社(神使は『猿』)の場合は、母屋(本殿)後面には何の彫刻もありません。
それについての考察は後日掲載予定の日枝神社の項で。


後編は、脇障子の彫刻と、その他の場所の彫刻です。
驚きの読み解きが!?

 次回に続きます
  → 絵解きに挑戦! 筑波山神社 境内社装飾彫刻1~厳島神社(後編)



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【参考文献】

1. 『図説 社寺建築の彫刻 東照宮に彫られた動植物』  高藤晴俊 著 東京美術

2. 『日光東照宮の謎』 高藤晴俊 著 講談社現代新書

3. 『寺社の装飾彫刻ガイド 百龍めぐり 関東編』 若林 純 著 日貿出版社

4. 『寺社の装飾彫刻 宮彫り―壮麗なる超絶技巧を訪ねて』  若林 純 撮影 構成 日貿出版社

5. 『寺社の装飾彫刻 関東編(下) 千葉・栃木・茨城・神奈川』   若林 純 撮影 構成 日貿出版社






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