茨城由来の冬の季語『蓑和田の鯉取り』を探る(1)

(2015年12月4日に FM84.2MHZラヂオつくば『つくばね自由研究クラブ』で放送した内容の一部を抜粋、再構築しております)



茨城由来の冬の季語『蓑和田の鯉取り』を探る(1)
さていきなりですが、筑波山を歌った有名な百人一首の句があります。平安時代の天皇だった陽成院(在位876~884 第57代天皇)が歌ったものです。

筑波根の 峰より落つる みなの川 恋ぞつもりて淵となりぬる 






茨城由来の冬の季語『蓑和田の鯉取り』を探る(1)
男女川(みなのがわ)の源流の一つ。
筑波山 御幸が原近くにて。








ところで、江戸時代、川柳や狂歌がかなり流行ったそうで、百人一首や古今和歌集などの古典的な短歌も、だじゃれにされたり、パロディにされたりしています。
先ほどの、陽成院が歌った筑波山の歌も、江戸時代の人にかかってはパロディになっており、そのもじり歌が作られています。

筑波根の 水も落ちくる 箕輪田の 鯉ぞつもりて淵となりぬる
(文献1)

この歌は、江戸前期の狂歌集である吾吟我集(ごぎんわがしゅう)に掲載されている歌だそうです。
※吾吟我集とは、石田未得 (いしだみとく) 著の全10巻の狂歌集。慶安2年(1649)。
  その名(ごぎんわがしゅう)も。古今和歌集(こきんわかしゅう)をもじり、内容の構成も古今和歌集を模して作っているパロディ本のようです。

つまり、LOVEの恋の歌が、魚であり食料でもあるCARPの鯉の歌にされてしまっています(^m^)。

でもここに出てくる、謎の言葉
箕輪田の鯉』??

Webio辞書『季語・季題辞典』によると、

箕輪田の鯉取 ミノワダノコイトリ
茨城・箕輪田でのコイ取りで、寒中にコイの活動がにぶったときに、水中に漁人がはいり、大きなコイを抱きとることで有名。

だそうで、『箕輪田の鯉取』という冬の季語だそう。

江戸時代、パロディに使われる位よく知られていたらしい、『箕輪田の鯉』とは? 。
場所は茨城のどこ?
そして、『鯉を抱き取って漁をする』その方法とは?

今回はその謎に迫り、さらには、現代の12月ならではの、びっくりな鯉の食べ方まで探ってみようと思います。


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(1)江戸時代から旨さのブランド 師走の風物詩、常陸国の鯉

江戸時代から、常陸国の鯉は旨いと評判でした。

江戸初期に編纂された俳諧の指南書である『毛吹草』という書物があります。
江戸時代前期の京都の俳人、松江重頼(1602~1680)が編纂したものですが、諸国の名物、美味しいものも書かれているという書物です。

ここに、『常陸 蓑和田鯉〈極月下旬唯一日取江戸ニ多出來スルナリ〉 』
という記載があります。
 ※先の狂歌の『箕和田』と、こちらの本の『蓑和田』では、『箕』・『蓑』と違ってますが、江戸時代の頃は発音にいろんな漢字をあてているの   で、あまり気にしなくて良いのかなと思います。

極月(ごくげつ)とは師走のこと。
師走の下旬のある1日のみ、江戸で多く売られるということでしょうか。

茨城由来の冬の季語『蓑和田の鯉取り』を探る(1)
昔から鯉の旨煮は、滋養もあるごちそう。
しかも冬は脂が乗って、さらに美味しい。








また、江戸中期、大坂の医師寺島良安が書いた、わが国初の図入り百科事典『和漢三才図会』にも、『常陸国土産』の項に『鯉 蓑和田』の名前が挙がっています(文献2)。

どうも、江戸時代のグルメのブランド鯉だったもようびっくり

その産地が、常陸国の蓑和田という場所のようです。

次回は蓑和田の場所を探ります。
茨城由来の冬の季語『蓑和田の鯉取り』を探る(2)

(つづく)


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【参考文献】

1. 江戸のパロディー もじり百人一首を読む 武藤禎夫著 東京堂出版

2. 和漢三才図会<10> (東洋文庫 456) 寺島良安 著  島田勇雄・竹島淳夫・樋口元巳 訳注


【参考サイト】

・Webio辞書『季語・季題辞典』

・(毛吹草)
大学共同利用機関法人 人間文化研究機構国文学研究資料館HP
国文学研究資料館トップ > 電子資料館 >古事類苑データベース
http://base1.nijl.ac.jp/~kojiruien/tibu1/frame/f001147.html 
(古事類苑>地部十四>常陸國>人口 第 2 巻 1147 頁) より

・(吾吟我集)
大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 国文学研究資料館
http://base1.nijl.ac.jp/iview/Frame.jsp?DB_ID=G0003917KTM&C_CODE=0214-16902
















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